お見合い席にまつわる話
飛行機に乗るとき、いつもあこがれるのが「お見合い席」である。私はいままで、お見合い席に座ったことがない。特に飛行機に縁があるわけでもないが。
お見合い席というのは、離陸や着陸するときに、スチュアーデスさん(いまではキャビン・アテンダントと呼ぶのがマナーだという)が座る、折りたたみ式の椅子の正面にある、客席のことを言う。なぜ、「お見合い席」というステキな名称がついたかというと、そこに座るラッキーな乗客は離陸と着陸のときにキャビン・アテンダントさんと割りと至近距離でご対面できるのである。いわば、堂々とキャビン・アテンダントさんを拝む特権がつくという、なんといっても貴重な席なのである。
なので、正確にいうと「お見合い席」そのものに憧れているのではなく、お見合い席に座ってちょっとステキなキャビン・アテンダントさんとご対面するシチュエーションに、憧れていると言えよう。キャビン・アテンダントがたまたまお兄さんだったりすると、ちょっとガッカリするのに違いない。
あるとき、老夫婦がお見合い席に座っていたのを見たことがある。着陸のとき、ステキなキャビン・アテンダントさんが老夫婦の正面の席に座った。つかの間ではあるが、どこからいらしたんですかとか、どのくらい滞在なされるんですか、とか。スチュアーデスさんのお仕事も大変なんだねぇ、とか(相手は老夫婦なのでそういう呼び名でも許されるのである)、他愛ない会話をしていたわけだが、その老夫婦がとてもうらやましかったのだ。そうったらそうなのである。キャビン・アテンダントさんはちょこっと頭を傾けてニコッと100万ドルの笑顔ビームを何度も放つのである。前歯がちらっとだけ見えるくらいの。アレを真に受けたら死んでしまうに違いない。
ということで、明日から日曜日まで少しの間、出張に行ってまいります。空飛ぶ乗り物は、エエ、大っ嫌いなのですが、死ぬ確率が果てしなく上昇するかわりに、せめてお見合い席に座れるかも、という淡い希望を胸において行きたいと思います。不時着のお見合い席になると困るのだけど。
それでは、いざ。