5.26.2011

ざんこく物語

清史はタバコが大好き。珍しいことに、社会人になってから吸いはじめたらしい。飲み屋で尊敬する上司にすすめられたことがきっかけだった、と誰かに漏らしたことがあるという。

それと、彼はいわゆる良い家の育ちで、礼儀正しい人間でもある。ネチネチ言うことはないが、意見があるときは他人のマナーについても注意することもある。

二つを合わせて考えると、少なくとも彼が「タバコ」を「ポイ捨て」することは、ほぼあり得ないことであることが分かる。清史は社内では必ず喫煙室で吸うし、外出するときは携帯灰皿を常備している。

ただ、残念ながら誰にでも過ちというものもある。清史はあるとき、何もかも上手くいかない日があった。家では妻と喧嘩するわ、仕事でもミスはするわ、ガムを踏むわ鳥の糞はふるわ、とにかく踏んだり蹴ったりな日だった。ムシャクシャしながら六本木のバーで飲んで、大好きなタバコを吸って日頃の憂さ晴らしをしようと思ったのだった。飲み終わって店をでると、自分がくわえタバコをしていることに気づいた。携帯灰皿はバッグにしまっていたが、酔っぱらっている上にムシャクシャしているので、そこら辺にタバコをポイ捨てしてしまった。

その場所、その時間にちょうど最近有名なドラマ俳優がとおりすぎたのが不運だった。多くのカメラマンや記者のような人が彼のあとをついていた。その俳優が(かなり酔っていたが)清史に気づくと、ポイ捨てはダメなんだぞう、と大声でどなった。

翌日のスポーツ紙に清史の顔もくっきり出てしまった。

5.20.2011

正体を暴いてやる

飛行機、それは何度見ても不甲斐ない気持ちになる。こんなマヌケな形した鉄の塊が飛ぶわけないんだから。バカじゃないかしら。みんな、絶対騙されている。

きっと、本当は人類のワープ技術はすでに完成していて、羽田空港とかはまやかしなのだ。滑走路なんて本当はいらないし、あそこの目的は500円のホットコーヒーでぼろ儲けすることに違いない。ぼろ儲けしていることは、確かなはずだ。

「機内」の作りも実にこそくだ。超揺れて怖くするのは、遊園地みたいなのを使ってる。不時着の手順も作り話。ああ、あの酸素マスク、無いですから。窓の外はCG。だからケチって窓ちっちゃくしてる。

パイロットいません。ビジネスラウンジで優雅に水割り飲みながら、喋ってます。CAさんが現場のボスです。可愛いマスクに騙されてはいけません。

ワープだいっきらい。ぷん。

宝石よ女たちに帰れ

美優は19才の女子大生。高校の頃からの彼氏から指輪のプレゼントをもらった。

シルバーのバンドに細かい花柄が彫られた可愛らしい指輪だった。美優がたまたま雑誌で見たときに、いいなあ、と言っていたブランド品だ。値段は高額で、バイト生活の彼氏が思いつきで手の届くような代物ではない。もちろん嬉しかったが、無理して借金でもしていないか心配になった。ねえ、これ高くなかったの、とやんわりたずねた。

彼も美優の気持ちを察し、告白した。そんなに高くなかったんだ、と。事情を詳しく聞くとどうやら質屋で入手したらしい。

聞いたは良いが、気分は複雑だ。質屋の指輪って微妙じゃない?だって、知らない女が質屋に売った指輪よ?悪い因縁がついてたらイヤかも。素直に言うしかなかった。


そんなこと決めつけられないよ、と彼は言う。良い因縁がついてるかも知れない。

どんな風になったら質屋の指輪に良い因縁がついてるといえるの?

5.17.2011

エレガンス

歌手の里美は天才と言われていた。一度も歌の教育を受けたことがないのに、子供の頃から才能を開花させ、その無邪気で透き通った声で多くの人々を魅了した。

成人になってもその魅力は衰えず、全ての喜怒哀楽が成熟され、彼女の歌にもその深みが現れるのだった。人々はますます彼女の歌を求めるのだった。

成功者には良くも悪くも人の関心が集中する。マスコミでは無理をしてでも彼女をおもしろおかしく仕立てたい輩もいた。恋愛事情を探られるのは当然で、ひどいときは親戚や身内に迷惑がかかるような事もあった。里美はどちらかというと平凡な暮らしで目立った材料はなく、いずれマスコミは捨て台詞をいうかのように「つまらない」というレッテルを彼女につけた。いわれのない攻撃というのは、このような事態をさす。

里美は56才で、惜しまれながらもきっぱりと表舞台をはなれた。今現在、孫が二人いる。生涯音楽に従事してたものだから、昔話も折り紙も料理の一つできないおばあちゃんだが、やさしいので孫はよくなついている。時々、動揺を教えたりするが、昔の歌手時代の話は一切しないのだそうだ。

5.03.2011

シャツの襟との戦い

この世のヒナミケイスケを減らします。

情けないことに、着れる洋服が危機的に減ってきたので、ダイエットと運動を再開しました。どちらも苦手ですが、継続中は精神的にも体力的にも調子がいいと認めざるをえません。街で出会うことがありましたら、どうか、ねぎらいの言葉をお願いします。嘘でもいいので、やせた?とか嬉しいです。エサは与えないでください。

手始めに、久しぶりのプチ断食を決行中です。三日間何も食わず、水のみの摂取というプログラムですが、私の場合はズルしてコーヒーとタバコだけはアリとしています。こればかり身体に良いわけがないですが、本当に死んでしまっては意味がないので。断食には色んな種類や期間があるそうですが、三日間というのが医者や坊さんの世話にならなくても大丈夫な限度といわれています。プチの一言が付くとどうもかわいらしいイメージなのですが、実際は結構こたえます。今現在24時間を通過したところです。断食の効果はデトックスがメインですが、断食後の「回復期」においてなるべく野菜中心のダイエットにすることも大事なのだそうです。そこまでストイックにこなせるか分かりませんが、適度の運動はなんとか続けようと思います。

何か書いたら気を紛らわせられると思いましたが、やっぱりお腹が空きました。

5.01.2011

放浪記の踊場

沢木亮太、35才。最近独り言か増えてきた。放浪癖がある。高校を出てから、ずーっと旅をしてる。東京から北海道の間は徒歩で何度か往復している。他にも色々ある。

旅は気楽なものだ。そして、色んな人と友達になったり、時には世話になったりもする。一人旅は、矛盾を感じるかも知れないが人との触れ合いも大事。だから、迷惑もかけられない。

次の旅のための金を貯めなきゃいけないときは、仕事をしてる。都会の時は、移動式のカレー屋台を仲間とやってる。大手町で商売するときは、自慢じゃないが他のカレー屋より何倍も列が長い。こんど、仲間と東北に炊き出しにいく。トッピングもなんもいらない。金をとらないから、さばくのもあっというまだ。素のカレーも美味いんだ、うちのは。

いまは、山荘の小屋番をやってる。5日ずつとか、長ければ一週間もこの小屋にいることだってある。登山者を泊めてやったり、休憩させたり、あとは小屋への荷物運び。缶詰めとかビールとか電池とかな。救助はまだやってないかな。シーズン中は賑やかだが、来ないときは一人でラジオ聞いたり、クロスワードパズルやったり、掃除。山を下りるとパンが食べたくなるんだ。パンはすぐつぶれちゃうから、山にもってくるやつが少ない。ラジオで聞いたんだが、マックのグラタンコロッケバーガーが食いたい。最近独り言が増えてきたな。