12.31.2021

思い出したい

岡村秀人、23才。

このごろ同じ夢を何度も見ている。大きな空間で、大勢の前に立たされている。その大勢というのは会社の人たちでも友達連中でもなく、知らない顔ばかり。それも老若男女さまざまで、みんな岡村に注目しているのだ。

頭の中の声が言う。

「思いの丈を吐き出すチャンスなのだぞ」

いったい何のことか分からない。そんな大勢の前で話すほどの思いなんか一つもない。

「みんな待っているぞ。早く」

頭の中の声が圧をかけてくる。

「早く、今言わないと後悔するぞ」

岡村は逃げだす。あてもなく走り続けるが、やがて誰もいない森にたどり着く。心細くなり、切り株に腰をかける。

あ、思い出した。。でも遅すぎる、と思ったとたんに目が覚める。

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今年もこれで閉店します。

みなさまの年末がおだやかでありますように。良いお年をお迎えください。

12.25.2021

厄介者

谷口秀平22才。

就職活動したが、結果として仕事に就いていない。両親は口にしないものの、ガッカリしている。この世代の人間はすぐに「成功」とか「失敗」といって結論をつけたがる。秀平自身、やりたくないことを目の当たりにすることで本当にやりたいことに気がつけたので、収穫があったと感じている。もうしばらく親のスネをかじることになりそうなので、両親が失望する気持ちもわからないでもない。自分ができることは具体的に行動し続けることなので、がんばるつもりでいる。

そのやりたいことというのは、ある知り合いの女性の手作りジュエリーのネット販売を手伝うことだ。

「谷口さん、うれしいけど悪いわ。こんな小粒な事業、とてもじゃないけど二人分の生活なんかにならないわ。私だって副業程度の気持ちでやってるの」

「あ、気にしないで。俺もついでだから」