11.13.2014

無限の猿定理

猿がタイプライターをランダムに打ち続け十分な時間さえかければ、いつか確実にシェイクスピアの作品を打ち出すという定理がある。言いかえれば、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる、ということわざを大袈裟にアレンジしたようなものだ。言い伝え自体、タイプライターの発明時期が19世紀とされるが、その後一般使用に普及した20世紀のどこかで生まれたのではないかと推測する。

実際の猿とタイプライターで、わざわざ実証しようなんて誰も考えもしない。頭で分かればいいことで、さらにクスッと笑えれば良い程度の話。ただひとつ敢えて深堀りするなら、「いつか」シェイクスピアを出すことは分かるが、「いつ」にその奇跡を目の当たりにできるかは運次第である。

時は2452年、猿がやらかしてしまった。国営上野大動物園にいるチンパンジーのモモエ、メス5才。とりわけ研究目的はなく、職員がモモエの遊具としてノートパソコンを与えたのがきっかけだった。新しい道具に対して可も不可もない反応と思われたが、後ほど監視カメラで確認すると、ひと気のない夜中、それも毎晩、鍵盤と格闘し、ときには頭をかきむしりながら削除ボタンを長押ししては再びカタカタ打ち続けるモモエの姿が確認された。

1年後、ひどく破損されたノートパソコンが檻の中で発見された。ハードドライブが奇跡的に無傷だったので、職員は仮にでもチンパンジーの知能を理解する手がかりが保存されていたら儲け物だと考えた。たった一つのテキストファイルが見つかった。「ハムレット.txt」。ファイル開始日はちょうど一年前、最終保存は二週間前。専門家に照合を依頼した結果4,042のセリフが打ち間違えもなく再現されていた。

原作と異なる点は一つだけ、作 MOMOEとなっていたことだった。