10.13.2018

奇跡の二人

安河弘樹48才。北山基47才。

二人は同じ埼玉のベッドタウンで暮らす同級生だった。安河は市役所に勤め、北山は地元の運搬会社。安河は妻と5才の娘がおり、北山は独身。仲が良く、月に何度か駅前の居酒屋で飲んでいた。

一見慎ましい二人の中年男だが、実は奇跡的な関係にある。

安河は一昨年のサマージャンボの大当たり当選者であり、北山は昨年の年末ジャンボ。同じ街の知り合いが大当たりを出すことは、無論チリのような確率のこと。しかし、それぞれ億万長者である事実を相手に伝えていない。嫉妬や妬みで人芸関係がこじれるのを恐れているからだ。

安河は子供の学費とローンの返済に回し、残りで資産運用を考えている。以前からしてやろうと思っていた両親の家のリフォームも。

北山は身寄りがおらず、金の大部分は定期口座に眠らせている。以前から欲しいと思っていたワンボックス車を買ったくらいだ。

依然として月に何度か駅前の居酒屋で飲んでいる。変わらず他愛ない会話をしているが、今年の宝くじを買うかという話題だけは自然としなくなっている。