2.22.2007

喉越しについて

流山大介は夢を見ていた。

その夢の中では、年齢不詳の、猫背の男がいる。
その男は、二つのことをしている。

一つは、ジーっとこっちを見ていること。目玉が飛び出てしまうくらい大きく目を開いて。そして、もう一つは、ものすごい勢いで固焼き煎餅を食べている。こちらから目を一度もそらさずに、次から次へと大きな固焼き煎餅を口に運び、バリバリボリボリ音を立てながら一生懸命煎餅を食べている。あまりよく噛んでいないので、のど仏がヒクヒク上下しているのが分かる。

途中から大介は数え始めた。20枚くらいは、いったか。その男は21枚目で手を止め、口に入っていた煎餅を吐き出す。落ち着いた口調で、喋った。

「煎餅食べます?」

思ってたより声が小さかった。大介は恐くなって逃げ出した。ただ、いくら逃げても常に耳元に同じ声が同じ音量でついてきている。煎餅食べませんか。煎餅食べませんか。煎餅食べましょうよ。おいしいですよ。この煎餅、僕のおばあちゃんの手作りなんですよ。ウソに決まってる。プラスチックの袋じゃないか。何で食べないんですか?

煎餅食べろ。俺の煎餅が食べられないっていうのか。俺の手が汚れてるのか?

せんべい!!せんべい!!
もはや人間の声ではなくなっていた。
せんべい、と叫ぶ救急車のサイレンのようだった。

後ろからえりをつかまれる。後ろからつかまれているのに、正面から泥だらけの手が巨大な煎餅を口に押し込んでいる。ぐいぐい押すので、噛むしかない。大介は無我夢中にアゴを動かし、できる限り噛み砕く。大きな煎餅のかけらが喉を通る。最初は痛いが、どんどんその喉越しが気持ちよくなってくる。ついていけていることに気づく。しばらくすると、煎餅を自分の口に運んでいるのはあの男の手でなく、醤油まみれになった自分の手であることにも気づく。

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