2.05.2007

クローバー、母親

清水風太という男の少年時代の記憶。
彼の母親である信子の言葉が、どうも印象に強く残っている。

「四葉のクローバーはとても、ラッキーなものなのよ」

少年の風太はそれを聞いてから、学校の帰宅路にある土手で四つんばいになって四葉のクローバーを一生懸命探した。日が暮れるまで探した日もあり、心配になった母親は泥だらけの風太を叱ったこともあった。探し始めてからちょうど10日目に、とうとう風太は四葉のクローバーを発見した。想像していたものとは異なり、四葉とはいってもバランスが非常に悪く、4つ目の葉(風太の中では勝手に4つ目だったのだった)が他の葉より一回り小さかった。

これでもいいのか、と少し不安でもあったが風太はそのクローバーを摘みとり、ポケットの中で潰れてしまうといけないので手に持ったまま家に持って帰った。そして、自慢げに母親に差し出した。

「摘んできちゃったの?まったく、もう・・・」

母親にまた、叱られてしまった。少年は混乱した。

「あのクローバーはきっと、他の人を待っていたのよ。」

ただ、摘んできてしまったのだから、また土に植えてももう手遅れだ。母親は無言で少年のクローバーを手に取り、そのまま台所の流しでほこりを洗い流した。風太はシクシク泣きながら部屋に戻っていった。数日後、母親がそのクローバーの入ったしおりを本に挟んでいたのを、風太は今でも覚えている。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home