6.06.2020

父親の箸

幼少期の思い出が少ない気がする。

住んでいた家や風景、登場人物の顔や名前。情報の欠片はたくさん頭の中で棚に並べてあるのだけど、出来事や、自分が感じたことの記録をし忘れていたようだ。子供の頃に虐待を受けたとか、おかしなトラウマは多分ない。

暮らす上で支障となる悩みではありませんが。しいて言えば踏み込んだ人間関係が少し苦手。

それにしても、自分もいい年になってきたということは、両親は相応に年老いてきたことになる。滅多に合わないし、この先長くないことを考えると、この「覚えてなさ」を残念に思う。

がんばって頭の中の記憶の棚をあさって、思い出として光る何かを探してみたところ、ひとつあった。

父親は昔も今も、子供が食べる姿を喜んだ。ときには過度にはたらき、無理に食べるよう促したり怒ったりもした。出張土産もたいてい食べ物だった。チョコレートとかビーフジャーキー。海外旅行にいけば片っ端から珍しそうな果物。

モノがない時代に育った人間だから。台湾の国民性もあると思う。中国系の映画をみると、家族団欒のシーンでは親が子供に「これ食べろあれ食べろ」と促す言動が多い。子供がたくさん食べて太ることが、生活の豊かさを象徴するなのだろうか。

そんなこんなで今日肥満の悩みも少々あるが、食べることが好きなのか、少なくとも食べることに関してたくさん考えるようになった、そんな気がしている。