4.12.2020

春の出会い

寺井ひろき、男21歳。

大学を卒業して不動産会社に就職した。全国のあちこちに営業店をかまえる会社で、縁もない群馬県で単身赴任となった。前橋にある事務所に近い1Kを借りることにした。

引越し屋が帰ると、すんと部屋が静まりかえった。そうだ、この街には一人も知り合いがいない。寺井は近くのコンビニでビールとつまみを買い、ひとまず晩酌することにした。

日が暮れ夜も更け。天井の青白い蛍光灯にあたると、思った以上にアパートがボロいことに気づく。酔いもすぐまわり、0時過ぎには布団に潜り込んだ。

声が聞こえる。

「借金も減らないし、嫁は出て行くし、何も面白くなくて。首吊ってしまったわけですわ」

「それは気の毒に。。あたしは強盗に遭って包丁でグサり」

「そうかぁ、それは残された身内もかわいそうだな」

寺井は布団の中で凍りついた。幽霊だ。

「お、そこのお兄さん、起こしてしまったかい」

気づかれた。頭が真っ白になった。

「噛みつきゃあしないさ」

「そうよ、お話ししましょう」

感じの良さそうな人たちだ。
本当に大丈夫なのか。

「お兄さんは俺たちに何も悪さしてないだろ?」