6.27.2022

映画館

山田三郎、さいきん仕事を辞めた。問題をおこしてクビとかではないので、心は穏やかである。もちろん将来のことは考えなきゃいけないのだが、おおむね前向きな気持ちでいる。

 

日中はドトールで転職サイトを見たり本を読んだりしている(割とまじめに)。そうとはいっても平日の時間が余るので、映画館にいくことが多い。街の喧騒から切り離され、がらんとした暗い空間で思いにふけるのは気分が良い。

 

昨日もそんな夜だった。

 

新宿の短観映画館で、作品は独立系の邦画だった。指定席を選ぶとき、どこでも空いてますよ、と言われ、自分好みの真ん中列の横端にした。ひょっとすると、独り占めかも知れないとワクワクした。上映時間まで外のラーメン屋で夕飯を済ませることにした。15分前に戻り、店員の入場の案内を待つ。検温を受ける。席に着く。

 

自分の後に入ってきた客は二人。一人は最前列に向かう中年男。もう一人は後ろの方だったので、音でしか確認できていない。

 

エンドクレジットが終わり、会場の照明がゆっくり灯るとともに席をたった。

 

最前列の中年男が消えていた。なんだか不思議な気分になった。

6.17.2022

私は会社じゃない

清澄直樹、男43歳、配偶者あり。現在無職。

今年4月に地球防衛隊を退職したばかりだ。これまでの社会人生活の全てを捧げてきただけあって、自分でも有意義な仕事に携わったのだと感じている。

ただ、大きな声では言えないがマンネリ化してきた。まわりは熱心な隊員ばかりで、自分との気持ちのギャップが申し訳なくなってきた。本業以外に発生する膨大なペーパーワーク、人材育成や評価責任、組織の根回しや上官とのすれ違いなどのストレスが雪だるまのように膨らみ、退職の意思をかためるのだった。

若手隊員も力ついてきたし、任務は安心して引き継ぐことができそうだ。

少しの退職金と貯金をたよりに、栃木の田舎でペンションを建てる予定だ。地元の作物をつかった食事や、温泉をフィーチャーしたい。

ペンション運営の勉強や借金のこともあり、当面贅沢はできないが、長年の夢を実現するラストチャンスだと思っている。