5.23.2016

言わなかったこと

俺はヤモリジュン。刑事だ。
厄介な捜査を担当することになった。

失踪したのは川上晃、35才会社員。小さな貿易会社で、中国から全身タイツの輸入を手がけている。社長曰くお笑いブームで卸先の引く手あまたらしい。川上晃は優秀な営業マンの一人だった。

妻が捜索願を提出してから一ヶ月経過。かなりの目撃情報を収集してきたが、最後に無事の姿が確認されたときの状況が奇妙だ。

場所は全身タイツ会社の事務所がある、新宿の小さな雑居ビル。その他のテナントは消費者金融、弁護士事務所、マッサージ店、空室。一階はコンビニになっている。水曜日の監視カメラがとらえたのは川上と同僚が一階のエレベーターに乗り込むところ。恐らく昼食から会社に戻るタイミングだ。二人は談笑しているし何もおかしい様子は見受けられない。ところが数秒後、5階の監視カメラが見たのは、たった一人で川上の同僚がエレベーターを降りる姿だった。

同僚もずっと一人であったかの様子で、何事もなかったかのように社に戻る。

無論、まっさきに同僚の人物に接触したが、手がかりとなる情報を得られなかった。その日川上と時間を過ごしたことすら認めないのだ。監視カメラの映像を見せても黙り込むだけだった。

川上とは親しい関係ではなかったと話している。