3.19.2023

金子さんのNB

我が家で「金子のおじさん」と呼ばれる親戚がいる。父側。血のつながりは、何度か父親に教えてもらったことがあるが複雑すぎて記憶に収まらないでいる。年齢不詳、職業不明、たぶん未婚、中央区在住。

私は江東区なので、地理的には近い。毎年年賀状を送り合ってるが、顔を合わせるのはもっぱら葬式でしかない。顔合わせるたびに顔が変わっていたとしても気づくことはないだろう。

金子のおじさんが亡くなった。どうやら、彼をよく知らないのは我が家だけでなく、日常的な関係をもつ者はいなかったらしい。一家が恥ずべきことか、孤独死だった。

最寄りの親戚だということで、金子のおじさんの住まいと遺品の整理を頼まれた。私は少なからず罪悪感もあり、それを引き受けることにした。

業者を雇い、現地で下見と作業の見積もりをしてもらうことにした。

散らかっていたが、ゴミ屋敷のような酷さはなかった。依頼主ではあるが、おじさんのことはよく知らない。興味本位で私物をあさるのは忍びなく、視察は業者に任せて私は玄関付近で待機した。

手持ち無沙汰になり、靴箱だけ自分で開けて中を覗いた。革靴が2足、グレーのニューバランスが3足。ニューバランスは全部同じ型のもので、ほぼ新品のもの、ほどよく履き込まれたもの、かなりボロボロのものが順に並んでいた。