8.29.2013

夏の終わり

笑い話と同じで、怪談話にもオチがなければ成り立たない。そういう意味では、これからする話は怪談話と言えないかも知れない。ただ、実際おきた出来事であったことだけは確かだと言っておきたい。

ようやく落ち着いてきたようだが、今年の夏は本当に暑かった。何日目かの猛暑日だったか、私は気休めにベランダの物干し竿に風鈴をかけることにした。狭いベランダで風通しがあまりよくないせいか、ほんのたまにしか鳴ってくれなかったが、鳴ったときは少しだけ涼しい気分になった。ほんの、たまにだが。

ある熱帯夜、風鈴がおかしな音を発した。私が感じた限り無風のはずだったのに、突然チリリリン、と連続して鳴るのだった。風で鳴る音というより、まるで何者かが風鈴の短冊をつかんで無理やり振ったような。不気味だと思ったが、わざわざ怖いものを見るために布団をでて確認しに行きたくなかった。

その後もおかしな風鈴の音はほぼ毎晩続いた。普通に鳴ることもあれば、仕切りにチリリリリ、と鳴る続けることもあった。しかし慣れてくるにつれて、風鈴の短冊を振る何者かに悪意はないように思えてきたのだった。それ以上のイタズラが目的なら、いくらでもそのスキがあったはずだ。

ノラネコか幽霊か変質者か分からないが、こう暑くては正気で仕事にならんのだろう。

8.16.2013

夏のスペクタクル

平山薫、会社員37才。妻・聖子36才、娘・紀子6才。性格は穏やかで社交的、若干のワーカホリック気質。この日、彼はとてもワクワクしている。

今年のお盆休みは仕事のため、妻と娘を田舎に送り出して留守番することになった。家は薫王国。何時に帰宅しても怒られることはない。食費は前金でばっちり確保済み。仕事も意外に早く片付いた。すべての状況が好転し、奇跡としか言いようのない、七日間の祭りが訪れた。平山薫は妻と子供は大事にしているが、それとこれとはまったく別次元のことである。世の中の男の夢と希望のためにも、平山薫にはこの授かったチャンスを活かす使命がある。心のファンファーレが彼を奮い立たせた。

計画が肝心だ。7日間連続ツタヤでは、本当に全米が泣いてしまう。平山薫は携帯の連絡先を片っぱしから棚卸した。登録名、泥沼汗太郎。。。泥沼汗太郎。。。そうだ、モモヨちゃんだ。モモヨちゃんとデートをするのだ。この時期のお誘いは意外とトリッキーだ。相手の帰省計画とバッティングするリスクはもちろんあるし、上手く自分がヒマである理由を明確に伝えないとイメージダウンにもなりかねない。そうだ、実家を海外にしてしまおう。仕事が忙しくて航空券をとるタイミングを見誤ったと。うむバブリーで大変よろしい。結果、モモヨちゃんに悪い印象は与えることなく誘うことができた。しかし、彼女は既に田舎の神戸に帰省していたためデートは実現しなかったのでおあいこであった。

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もう3日目の夜だ。ビデオを見終わった平山は深くソファに腰かけて溜息をついた。フハァ。