6.22.2019

マーラーの恋

クラシック音楽の有名どころで、グスタフ・マーラーという19世紀後期の作曲家のお話。貧しい生い立ちで、キャリアの大部分はオーケストラの指揮者として生計を立てていたらしい。心臓が弱く、50才の若さで亡くなっている。

バッハやベートーベンと比べると作曲のレパートリーも少ない。それでもマーラーが代表格として挙がるということは、それだけ1つ1つの作品が人の琴線に響いたからではないかと思っている。ところが、内容は決して分かりやすい音楽ではない。流れがつかみにくいし、主旋律がわからなかったり、不協和音もしばしば。聞き手もがんばって聞かなければならない。現代音楽独特の気難しい要素もあるといえばある。

一曲だけ、毛色の違う楽曲がある。交響曲第5番第4楽章の「アダージェット」。壮大な作品のうちわずか10分弱を占める小作だが、あまりにも美しく、交響曲そっちのけに単体の作品として演奏されることが多い。ハープのアルペジオにあたたかい弦楽器の主旋律が重なっていく。限りなくシンプルで、ゆっくりで、情緒深い。疑いようのない「ラブソング」だ。

言い伝えによると、マーラーは「アダージェット」の五線譜を説明文もなしに恋人のアルマに送りつけた。アルマはマーラーの告白を五線譜から読み取り、マーラーに「一緒にいましょう」と返事をした。出来過ぎた話だが、なかなかステキだ。

マーラーが何故こんな方法で気持ちを伝えたのか。口下手で奥手だったのか、それともキザな自信家だったのか。

なんとなく前者であったと信じたい。