2.06.2007

平凡な夜

台所に鳴り響く音。

それは、四人家族が小さなテーブルを囲んで、モクモクと食べながらお箸をカチャカチャ鳴らしている音のことである。この音がくっきり聞えるということは、言い返せばあまり会話がないということである。喧嘩をしているわけでない。四人のうち二人以上が仮にも喧嘩をしていたならば、それは声に出ていただろうし、それを止めようとする声もあったと思われる。この家族は、仲が悪くない。ただ、今は静かに食べている。仲良くとも、静かに。

テレビはつけていない。いつの事だったか、父親か母親が食事中のテレビは良くないと宣言し、その鶴の声に従って食事中はテレビも、ついでに新聞も禁止となっていた。誰もがこの静けさにはじめは違和感を感じていたが、そのうち慣れていった。話題があるときももちろんあるし、その時は会話もするし、喧嘩だってする。ただ、何も話題がないときはこう、静かに食べるしかないのだった。

ただ、一度この状態になってしまうと、その食事が済むまで別の音を割り込ませるのは非常に難しかった。それぞれ、この静けさを壊すまいと、自然に構えてしまうのだった。四人の意識は次第に茶碗の底へ、底へと深くもぐっていくのだった。

カチャカチャ、カチャカチャ。

カタン。

「ごちそうさま。勉強がまだ残ってるから、部屋に戻るね。」

次男が立ち上がる。茶碗とおわんを丁寧に重ねて、流し台に置きにいく。
トン、と茶碗の底がステンレスの流し台に当たる音がする。
蛇口をキュッと開く。米粒が茶碗にこびりつかないように水を少し足す。
キュッと閉じる。キッチンペーパーを数枚ちぎって手を拭き、くずかごに投げ込む。

「ごちそうさま。」

二度繰り返したことに気づき、母親が我に帰ったかのように、

「おそまつさま。」

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