10.05.2019

トイレの美化に協力

とある眠たい住宅街の、特記すべきこと何一つない駅。急行も止まらないし乗り換えもない。名物も歴史も記憶に残る事項が、とにかくまったくない。

そんな駅改札内のトイレに踏み入れた時、私のなかで衝撃が走った。まず気がつくのが、きつめの芳香剤の香りのおもてなし。見渡すとすばらしい左右のシンメトリー。左側には美しく並ぶ奇数の立ち便器、右側には二つの個室と掃除道具の収納。洋式と和式一台ずつと、実に日本人らしく、日米の平和祈願を表現している。古びたベビーブルーは太平洋のモチーフか。

背後にはさらなる驚きが。手洗いの蛇口には冷温の表記がない、そして一口に絞られている。極限のミニマリズムがモダンな暮らしの価値観の象徴か。ハンドソープの容器と紙タオル入れも、当たり前のように空っぽにされている。暴走する物欲とキャピタリズムに対し、静かな疑問符を投じているのだ。

曇った鏡にうつる自分の顔と向き合うと、一筋の涙が流れていた。