4.06.2019

セーフティネット

鏑木隆史、会社員38才。妻紗希子、娘さくら2才。共働きで世帯収入900万円、桜新町にある1LDKの中古マンションで暮らしている。勤め先は化粧品会社の人事主任。妻は家業の税理士事務所の事務手伝いで、仕事の日は娘を保育園に預けている。桜新町は紗希子の地元で、じーじばーばが一人孫を可愛がりによく出入りする。

若い頃の隆史は不安定だった。大学時代から音楽に熱心で、バンドや音楽仲間との付き合いに金と時間と心を費やしていた。生み出す音楽そのものの形はそこそこ納得のいくようになったが、気がつけば30才になっても一人前の稼ぎは得られず鳴かず飛ばずの状況にあった。プロの知り合いの暮らしぶりの現実も見ていたし、口には出せないが薄々自分の生活の軸を見直すべきか悩んだ。

紗希子との出会いもこの頃で、結婚年頃にもかかわらず一緒にいてくれる彼女に対する責任も意識するようになった。生活の変化は波で起きるもので、盗み聞きしていたかのように派遣社員として勤めていた会社から正社員のオファーがあった。

現在に至る。