3.29.2024

他人の親切

「定期券落としましたよ」

ぜえはぁしながら中年男性は言った。池袋駅の乗り換え中、しかも通勤ラッシュ中。

どうやら私は山手線を下車した時にホームで落としたらしい。男はわざわざ下車して定期を拾い、人混みに消えていく私を追いかけてくれたのだった。改札に辿り着く直前で私に追いつき、肩をポンと。

どうもすみません、助かりました!とすぐお礼を言った。親切だな、と思った。

ところが無意識に胸のポケットに触れたらしっかり自分の定期券がある。落としていなかった。

すみません、自分のではないと思います、せっかくなのにすみません、と何故か二度謝ってしまった。

男は無駄骨だったのかガッカリした様子だった。少し考えた末、

じゃあ、お腹空いてませんか?という。

じゃあ、って

3.01.2024

確率はくだらん

運転免許の更新場は残酷で美しいと思う、山宮浩二。埼玉県在住。

あらゆる人が運転をする権利を人質に否応なく来させられ、清々しいほど平等に扱われる。

試験場は「特別に」平等だ。所得によってバスや電車と縁がない人がいるかも知れない。車となれば、ここらの成人生活者のほとんどが対象だ。

学校、職場、住む街、病院、飛行機、飲み屋は属性の偏りが、大小あれ、必ずある。場所もたくさんあるし、選ぶこともできる。試験場は、選べない。

日本の縮図のはずなのだ。
ばらつくしかない運命。

なのに、なぜ全員オレンジ色のセーターを着ているのだ。自分も含め。