11.20.2022

育った村

芹沢琢也、男27才、清掃会社勤務。西東京在住。

上京したのは10年前のこと。Y県の山奥にある小さな村で生まれ育ったが、17才のとき少しのお金を握りしめて逃げ出した。思い返せば、追手が来なかったのが不思議だ。

唯一心残りなのは年老いた両親のことだった。あの人たちに限っては、ご飯を食べさせてもらったし、ひどいこともされなかった。救いの手こそではないけど恨みはなかった。

10年ぶりに電話をかけてみたが、使われてない番号になっていた。もしかして、亡くなったか。楽な生活環境ではないので十分あり得る。気の毒だがあきらめがつくまで、そう時間はかからなかった。

しかしふと村の記憶が蘇り、今の状況が気になりインターネットで検索してみた。

ところが何も情報がひっかからない。地図アプリにも、国土交通省のホームページにも、村の存在を示す情報がなにひとつ。

大体の位置を想像してストリートビューを開いたら、山奥の風景しか映らなかった。

ストリートビューの映像が存在することに背筋が少しぞっときた。