5.17.2011

エレガンス

歌手の里美は天才と言われていた。一度も歌の教育を受けたことがないのに、子供の頃から才能を開花させ、その無邪気で透き通った声で多くの人々を魅了した。

成人になってもその魅力は衰えず、全ての喜怒哀楽が成熟され、彼女の歌にもその深みが現れるのだった。人々はますます彼女の歌を求めるのだった。

成功者には良くも悪くも人の関心が集中する。マスコミでは無理をしてでも彼女をおもしろおかしく仕立てたい輩もいた。恋愛事情を探られるのは当然で、ひどいときは親戚や身内に迷惑がかかるような事もあった。里美はどちらかというと平凡な暮らしで目立った材料はなく、いずれマスコミは捨て台詞をいうかのように「つまらない」というレッテルを彼女につけた。いわれのない攻撃というのは、このような事態をさす。

里美は56才で、惜しまれながらもきっぱりと表舞台をはなれた。今現在、孫が二人いる。生涯音楽に従事してたものだから、昔話も折り紙も料理の一つできないおばあちゃんだが、やさしいので孫はよくなついている。時々、動揺を教えたりするが、昔の歌手時代の話は一切しないのだそうだ。

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