してはいけません
樹海に迷い込む人たちについてのテレビ番組なんて見てしまったものだから、じっとしていられる訳がない。きっと今そこにいったら、自分の助けを必要としている気がしてたまらなかった。
森林を歩き始めて早くも四時間経とうとしていた。助けるべき「誰か」の名前は知らないので、歩き探すしかなかった。
川に出た。地図を見てもこんなところに川はないはずだ。はて、迷ったか、と思っていたら川岸に小さな漕ぎ船があった。老人が一人、船のなかで立っていた。木ノ下は息をのんだ。三途の川だ。
三途の川ですか?
さよう。三途の川だ。
私はのらなきゃならないのですか?
冗談じゃない。来た道を50メートル引き返して左にまがって林道を3・7キロ進んだら県道にでるから、とっとと行きなされ。
老人はご立腹のようだった。なんとかなだめて、怒ってる理由を問い出すと、老人は実に正真正銘の三途の川の船漕ぎだが、木ノ下のボランティア心を悟ったようで、気に入らなかったのだった。こっちは出来高性なのだ。余計な世話はやめてほしい。どの道、ここまで来た者の決心はそう簡単に揺れるものではない。たとえお前さんが説得に成功したとしても、遅かれ早かれ、戻ってくるのだ。
木ノ下は反論した。どうせ死ぬから、なんて言ってたら医者はいらないでしょう。人として、死を遠ざけることは大いなる意味があるのです。
お前さんとは分かち合えないようだ。ここに来るまで、いったい何人にちょっかい出したんだ。今日はやたら静かだと思ったが。
四人に関与してきた。
なんと、四人も。頭がクラクラする。それらの者はどうした?
みんな、私に感謝をして帰って行ったさ。
二人の後ろの茂みで物音がした。中年の男が一人でてきた。木ノ下の顔をみて、驚いていた。
あ、あんたは先ほどの木ノ下さん…。
気まずい空気が三人を囲った。