言うとき
ところがこの努さん、とことん運のない男でもある。幼いころ両親を事故で失い、貧しく、生まれつきで方耳は聞こえず、モテず、良くコケる、など、どうしようもない苦労話が絶えない。あいつはあんなに良い人なのに、まるで神に見捨てられたかのようだ、と彼の友人は言う。神様をおがんでなんとかなるなら、人生苦労しないさ、と。
早い話、努さんも人間なので我慢の限界はある。このごろ仕事で怒られクビになり、一週間まともに食わず、同じ日に二度自転車にはねられ、ペットのミドリガメが脱走した。たまりにたまったストレスを、とうとう神にぶつけてしまった。
おい何か悪いことしたか、俺?30年間もバカみたいに祈ってきたが今日から辞めた辞めた。なーんもいいことないんだから。
そんな嘆きが神の耳に届いたのか、努さんはその翌日に不思議な夢をみた。神が直に現れたのだった。努さんの頭に一つだけの思いがよぎった。
まずい。これで30年間の努力が水の泡だ…
神はおもむろに口をひらいた。トイレいってた…。デコピンしていいから、許してくれるかい?