9.15.2024

瑣末なこと

廣川昭二、男54才。

今年で20年目の結婚記念日である。妻の春子とは概ね仲良くやってきた。お見合い婚だ。子供は出来なかったが、かわりに穏やかな二人暮らしがあったため後悔はない。

初めての就職先一本でキャリアを貫き、そこそこ重要なポストを任されるようになった。管理職に慣れ時間の余裕ができたので、若い頃の趣味だった絵画をまた始めようかと妻に話した。

そんな趣味あったっけ、と春子は言う。

あったよ、高校では美術が得意だったんだ。

へえ、そうなんだ。

妻は絵や音楽、映画読書といった芸術に興味がないので、会話にならないことは分かっていたものの少し残念な気持ちになった。