12.31.2024

企画会議

そうだ神様を作ろう。

部長それは名案だと思います!

そうだろう?お客様もきっと喜ぶ。拝んでもらえれば商売にも良い。

何の神様にしましょうか?

そうだな。メキシカンタコスの神でどうだろうか。

他人と被らないのでとても宜しいかと思います。それよりも、どうすれば集客できますか?

若者は宗教を避けがちだ。拝むメリットをわかりやすく伝え、最初の3ヶ月ははお布施をおさめなくて良い決まりとしよう。

それはいいですね。

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今年も閉店です。

皆様の年末年始が穏やかでありますよう祈っております。

11.08.2024

視界

森川ハジメ、32才会社員。

転職をきっかけに、アクセスの良いベッドタウンのマンションに引っ越した。立地は便利だったが、人の気配が案外少ないものでさびしい生活であった。

ベランダから見渡す限り、他のマンションが視界を埋め尽くしていた。ぼんやり眺めていたら、あることに気がついた。

向かいのマンションの4階と5階の居間がそれぞれ、上下重なった様子が視界におさまっていた。同じ位置にソファとテレビが置いてあった。ほぼ同じ観葉植物、同じ壁時計。似た具合に薄毛の中年男性の後頭部がソファから生えているようだ。

上下階同士で答え合わせすることなんて生涯ないことだろうと思い、森川は根拠もない優越感にひたった。

次に違うマンションに目を向けると、知らない人と視線が鉢合わせした。

9.15.2024

瑣末なこと

廣川昭二、男54才。

今年で20年目の結婚記念日である。妻の春子とは概ね仲良くやってきた。お見合い婚だ。子供は出来なかったが、かわりに穏やかな二人暮らしがあったため後悔はない。

初めての就職先一本でキャリアを貫き、そこそこ重要なポストを任されるようになった。管理職に慣れ時間の余裕ができたので、若い頃の趣味だった絵画をまた始めようかと妻に話した。

そんな趣味あったっけ、と春子は言う。

あったよ、高校では美術が得意だったんだ。

へえ、そうなんだ。

妻は絵や音楽、映画読書といった芸術に興味がないので、会話にならないことは分かっていたものの少し残念な気持ちになった。

7.21.2024

消えた人

久口忠夫、54才。
山梨県某所にて隠居。

昔は老舗メーカーの会社員だった。若い頃から何をやらせても結果を出す人で、しかも人望も厚く育成希望者が後を経たない稀有な存在だった。様々な部署で経験を積み、着々と部長にのしあがっていった。

ある日辞めてしまった。

華やかな仕事っぷりの裏でやましいことがあったのか、それとも生き甲斐を大きく揺るがす出来事があったか。それとも、風当たりの強い地位に疲れたか。お金はもう十分あるからとアーリーリタイヤだったか。

いまや誰も知る由もない。

6.16.2024

喜劇と喜劇

大林幸子と小森純子は幼い頃からの友人。

大林は優等生で高学歴・花形の職にも就き、今は幸せな結婚生活で二人の子供を育てている。

小森は何かと不遇な苦労が多く、詐欺や借金、男問題に足枷をくらい今は闘病生活をおくっている。

そんな対照的な人生だが二人はたいそう仲が良く、小森は大林を妬むことなく、大林は小森をあざ笑うことなく、お互い応援し合う関係にあった。

大林は最後の最後でいろいろ失った。小森は最後の最後で安堵と報いを手に入れた。

二人とも仏の顔で生涯を終えた。