2.14.2012

母親の手紙

この頃母親から手紙が頻繁に届く。頻繁といっても2、3ヶ月の間隔だが、自分が手紙を書く習慣がないので頻繁に感じているだけかも知れない。返事はいらないと言うので、甘んじて書いていない。

最初の一通が届いたときは何かとんでもないことがあったのではないかと焦った。私は昔から親に苦労させた方なので、大抵親から接触がある場合は説教される体制をとる。ただ思いの外、手紙の内容は日々の雑感や嬉しかったこと、不安に感じていることばかりで、仮に赤の他人宛に送ったとしてもまかり通るほど平凡だった。

意図は未だに分からないが、感じたことがある。自分が年をとったせいかも知れないが、幼いころ見ることの出来なかった親の人間性。それは弱さであり、時には愚痴という形もとるし、根拠もない希望だったり、人には言えない内緒だったりする。良くも悪くも、親はスーパーマンでなくなり、一人の男や一人の女になる。

母親は時々、手紙と一緒に新聞の切り取りみたいなものを同付する。最近の手紙には、夏目漱石の「草枕」と言う本からの一ページのコピーが入っていた。恥ずかしながら私は夏目漱石の本を開いたことがないが、偶然で最近たまにライブをやらせてもらっている喫茶店の名前が「草枕」という。

以下、草枕より

兎角に人の世は住みにくい…中略…越す事のならぬ世が住みにくければ、住みにくい所をどれほどか、寛容て、束の間の命を、束の間でも住みよくせぬばならぬ。ここに詩人という天職が出来て、ここに画家という使命が降る。あらゆる芸術の士は人の世を長閑にし、人の心を豊かにするが故に尊い。住みにくき世から、住みにくきわずらいを引き抜いて、ありがたい世界をまのあたりに写すのが詩である、画である。あるは音楽と彫刻である。

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