3.29.2024

他人の親切

「定期券落としましたよ」

ぜえはぁしながら中年男性は言った。池袋駅の乗り換え中、しかも通勤ラッシュ中。

どうやら私は山手線を下車した時にホームで落としたらしい。男はわざわざ下車して定期を拾い、人混みに消えていく私を追いかけてくれたのだった。改札に辿り着く直前で私に追いつき、肩をポンと。

どうもすみません、助かりました!とすぐお礼を言った。親切だな、と思った。

ところが無意識に胸のポケットに触れたらしっかり自分の定期券がある。落としていなかった。

すみません、自分のではないと思います、せっかくなのにすみません、と何故か二度謝ってしまった。

男は無駄骨だったのかガッカリした様子だった。少し考えた末、

じゃあ、お腹空いてませんか?という。

じゃあ、って

3.01.2024

確率はくだらん

運転免許の更新場は残酷で美しいと思う、山宮浩二。埼玉県在住。

あらゆる人が運転をする権利を人質に否応なく来させられ、清々しいほど平等に扱われる。

試験場は「特別に」平等だ。所得によってバスや電車と縁がない人がいるかも知れない。車となれば、ここらの成人生活者のほとんどが対象だ。

学校、職場、住む街、病院、飛行機、飲み屋は属性の偏りが、大小あれ、必ずある。場所もたくさんあるし、選ぶこともできる。試験場は、選べない。

日本の縮図のはずなのだ。
ばらつくしかない運命。

なのに、なぜ全員オレンジ色のセーターを着ているのだ。自分も含め。

2.12.2024

だからやめた

「挑発してるのかな、、」

平日は仕事が忙しいので、週末は体のケアを心がけている。走るのは嫌いなのだが、天気が良ければ自分の中の言い訳をねじ伏せて走る。

人混みを避けるべく、コースは隅田川に沿う長細い公園にしている。釣り人や犬の散歩をする人がちらほらいる程度だ。

問題の人はママチャリに乗る老人だ。自分の前を走っているが、チラチラ背後を確認してくる。私と同じくらいのペースなので、ハタから見れば昔ながらボクシングコーチと練習生の絵面のようだ。

私も速度は出せないので、追い越す体力を使う余裕はない。しかしかれこれ2キロくらいは老人がつきっきりなので違和感しかない。

チラチラ見てくる顔が妙にニヤついている。断じて悪いヤツの顔だ。

いっそのこと走るのをやめるか。悪い結末しか想像できない。

1.20.2024

予定は祈り

大変、明日は大雨の予報だ。

他人に迷惑をかけないのが信条だ。まずは明日のテニスの予定をキャンセルする旨を友人に伝えなければ。テニスコートにも同様だ。

次は家財を守らねば。布団や洗濯物をうっかりベランダに干さないようにしなければ。カビ臭くなったら被害が大きい。

最後に自分だ。明日は豚汁にしようと思ったが、豚肉とこんにゃくとキノコがない。今日のうちにスーパーに行っておこう。

せっかくの日曜日なのに閉じこもりぱなしでは退屈だ。読む本、見るテレビなどメボシをつけておこう。

晴れたらどうしよう。

予定は祈り

大変、明日は大雨の予報だ。

他人に迷惑をかけないのが信条だ。まずは明日のテニスの予定をキャンセルする旨を友人に伝えなければ。テニスコートにも同様だ。

次は家財を守らねば。布団や洗濯物をうっかりベランダに干さないようにしなければ。カビ臭くなったら被害が大きい。

最後に自分だ。明日は豚汁にしようと思ったが、豚肉とこんにゃくとキノコがない。今日のうちにスーパーに行っておこう。

せっかくの日曜日なのに閉じこもりぱなしでは退屈だ。読む本、見るテレビなどメボシをつけておこう。

晴れたらどうしよう。

12.31.2023

長生き

角川邦正、44才会社員。

あるメーカーに転職した。経験したことのない業種、ゼロから始まる人間関係。まずは身近な人とのコミュニケーションが大事だと考えた。

プロパーの同僚の安藤さんとは年齢も近く、業務上の絡みも多い。性格も温厚で思慮深く、とてもありがたい存在だった。

「わかりました」「そうですね」が口癖で、ときには聞き流してるだけなのではと感じるときもあった。

「いま全然聞いてなかったですよね?」と冗談で茶化したこともあるが、これまでの話の要点をさながら議事録のように復唱できていた。自身の感想や考えは求められれば話す、というポリシーなのだという。

私は謙虚なんです、と笑いながらいった。

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みなさま穏やかな年末年始をお迎えください。