2.01.2012

どうか忘れないで

先々週の土曜日、新橋のとある裏道に迷い込んだ。そこには過剰とも思えるほど多くの蕎麦屋がならんでいた。平日は多くの会社員でにぎわっているに違いないが、その土曜日の昼過ぎはほそぼそと営業していた。

歩いていると、どの店も非常に似ていることに気づく。どこに入ってもメニューは大体同じ、価格もしかり。同じ券売機、同じ食品サンプルの入ったガラスケース、同じような茹で場担当の無口なじいさんと同じような雑務担当のおばちゃん数名。見分けるには店の名前をおぼえるしかないだろう。もっとも、全部同じなのだから店を見分ける必要がないといえば無い。まるでこの特別な新橋の片隅だけ、差別化、だとか、競争、のような経済的な原理から免除されているように思えた、それも、ごく当たり前のことのように。

私は店に入り、券売機で好物の「ミニかき揚げ丼セット」の食券を買った。ちなみに、私の場合は寒い季節でも、ざる蕎麦でないと蕎麦を食べた気がしない。三十秒待たないうち、セットが盆に出された。奥の立ち食いカウンターで陣取った。

一人の老人が店に入ってきた。多分、温かいわかめ蕎麦を注文したと思う。雑務のおばちゃんが世間話を持ちかける。今日も寒いですね、空いてるからどこでもゆっくりして食べれますよ、と嬉しそうに言う。どうやら常連のようだった。

先週の土曜日、たまたま近くにいたので、同じ裏道で蕎麦を食べることにした。同じようにミニかき揚げ丼セットを注文し、奥の立ち食いカウンターで食べた。老人が店に入ってきた。雑務のおばちゃんが世間話を持ちかける。今週は雪のようですね、今日は空いてるからどこでもゆっくりして食べていってくださいね、と嬉しそうに言う。

店の名前を覚えておけばよかった、とふと思った。

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