1.15.2011

聞き手、囚人

クッフ船長は、それは人望の厚い人物である。それも、ここらでは有名な海賊団「スナックでの一恋」を率いる権力者である。おおよそ百人の悪党および見習いを乗せた海賊船「かなこ」を上手く仕切らなければいけないのだから、並大抵のカリスマではまかないきれない仕事だ。

実はというと、クッフ船長はいわゆるプロパーではない。かなこの船長に就任してから実に22年間経つが、それ以前は経営コンサルティング会社で8年間働いていた。スナ恋の創設者で前船長の溝口公康が前線からはなれる時期のことだったが、本人の強い要望で後継者は外部から招聘されることになっていた。プロパーからは多少、不平不満の声もあったが、皆心の底では前船長の決断に納得していた。当たり前のことだが海賊というのは根っからの傭兵である。実益には貪欲だが、権力には興味がない。組織への束縛ももってのほか。そこで、結果、クッフが来たということだ。スナックでの一恋は、前船長の賢明な発想によりいまでも続いている。

クッフは話す。はじめから、別に海賊への憧れはなかったんです。部活と趣味でヨットをやってたものだから、いずれは海にかかわる仕事に就きたくて。でも、いまはすごく充実してるんです。海賊業って本当に小さなことの積み上げで成り立ってるもので、もの凄く難しい。強盗、恐喝、強姦、殺人、どれ一つ欠けてもいけない。全部できてはじめて海賊なんで。深いです、深い。海だけに(笑)

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