11.03.2010

やりなおしゴメン

島村楽太郎は480才だが、みためは31才だ。多少の前置きが必要なのかも知れない。

島村が実に31才のころ、悪魔と契約を結んだ。その内容はというと、島村が自らの魂を悪魔に担保として預けることと引き換えに、不老不死の身体を手に入れることだった。島村はその身体を持って好き勝手生きることができるが、ただし、「飽きた」と口にしたとたんに悪魔がその担保を実行することができるのだ。島村にとっては、十分自分にとって有利な条件に思えた。華のある人生を飽きるまで全うできるのであれば、たとえいつか悪魔に魂を引き渡すことになったとしても後悔はないと確信できたからだ。

というわけで、島村は480才になっており、いま現在においては「飽きて」おらず、どちらかというと快調そのものだ。時間さえかければ、想像の範囲内の目標は大概達成できるものだ。島村はまず試行錯誤の末、大企業の社長に上り詰めて大金持ちになり、贅沢三昧の生活を堪能してみた。その次には恋に生きる人生を楽しみ、死ぬほど愛せる女性を見つけては、先に逝かれて深く悲しんだ(懲りたが、飽きてはいない)。その次は芸術にふける日々をおくり、音楽や文学、写真、絵など、次から次へとマスターしていった。大自然も制覇した。死ねない身体なのでさほどスリルはなかったが、一応単独無酸素逆立ちでエベレストの頂上に立った。大きな国の大統領も、人を救うボランティアも、ホームレスも、プロ野球選手(日米両方)も、経験した。

いったいいつになったら飽きるのだろう、とふと思う今日この頃。

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