12.13.2010

子供が大人になるところ

17才になったばかりの道夫は、ある朝鏡をみたらヒゲが生えてきたことに気づいた。上唇の上に、うっすらと。客観的に見たら、根気のありそうな産毛といった程度だが、本人にとってはもう少し特別で、誇らしいものだった。

このまま、ほっといたらボウボウのフサフサになるのか。鏡を見ながら、人差し指でヒゲをなぞってみた。毛がまだやわらかく、感触は地肌を触れてるのとほぼ変わらなかった。

わざとけだるい顔をつくってみて、もうこんなに生えちまったか、と大げさにアゴをなでて格好つけてみた。母親が台所から、みっちゃん、朝ご飯できたから早くいらっしゃい、と呼んだ。道夫は、んあ、おう、とそのままけだるい感じで返事した。

すっかり声変わりね、と母親が冗談まじりにため息をついた。前はあんなにかわいい声だったのに。どんな男の子もそうだが、母親のこの類のつっこみは嬉しくも何もなく、これ以上反応に苦しむことはないのである。

あなただってね、早く大人になってもらわないと。あの人がいなくなってから、あなたには随分苦労させちゃったけど、ね。あと、良い人いたらあたしのことなんて気にしないで、いつでも結婚するのよ。あたしになんか気を使うんじゃないよ。ただでさえあなたモテなさそうなんだから、誰か付き合ってもらえるんだったら、逃げないうちにね。

だから母さん、今オレ17才だから。あせることもないだろうよ。

母親が再びため息をついた。そういうの、あなたの父さんにそっくりよ。

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