10.31.2010

イワシの缶詰め

源掃除の名義で小説を書いている。今年で61才だ。

二年前、長い付き合いの編集の担当者が病で亡くなった。年も近いし、性格もサバサバしていて、内容には厳しいがところどころ融通の利く良いやつだった。

後任は三十代の若者になった。能力はあるんだが、お調子者でな。前任が虫の息のころ、たまたま連載の単行本化が二本あって。これに関しては私は新しく何か書くわけじゃないので、作業といってもせいぜい表紙のデザインをみたり、あとがきの指名とか、あまり手のかからないことばかりだった。若者の方がはじめてのことばかりで、がんばっておった。ところが、一仕事終えてみればすっかり私に対して随分馴れ馴れしくなってな。

センセー、センセ。ごめんくださーいセンセ。今日も玄関先から呼び出される。先生、と口にはするが、言い方がまるで人の下の名前を呼んでるようで。きっと、いま書いてる推理小説の進捗状況をさぐりにきた。

汗と涙のタンゴ、どうですか?

そいつは仮名だといってあるだろう。

ああ、すっみませーん。そうでしたね。もう色んなところから訊かれるんですよ、次回作まだかって。二か月前から進んでます?

あたり前だ。いまやってるところだ。

先生、ひょっとしたら…あ、いや。

何だ。言って見ろ。

ひょっとしたら、また一章目でまたつまづいてるんでしょう。だって、前回は量的にほとんど出来上がってたじゃあないですか。前任の岡部先輩も良くいってましたよ、源センセのいつものパターン。

知ってるような口をききおって。せんなに分かってるならとっとと帰れ。いまちょうど書いてるところだ。

そうですかあ、でも、思い切って二章からはじめればいいじゃないですか。いや、私も大ファンですよ、センセの推理もの。でも、一章がいつもちょっと長いですよね〜。毎回ジュラ期からはじまるのがお決まりってのも若者には流行りませんよ?

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