4.06.2010

きっかけ

義理の姉が日曜日の夕方に訪れてきた。都内から一時間半はなれたところに住んでいる。普段の生活で特に関わりがないので、突然の訪問に驚いた。彼女にも家庭があり、よほどのことでもなかったら夕飯の支度で忙しいはずだし、まして出張で主人がいない我が家に雑談目的でくるわけがない。ようするに、悪い予感がしたのだった。

真澄さん、変な時間にごめんね。用件だけ済ませて帰るから、ちょっといいかしら。はい、それではなんでしょう、と切り出すわけにもいかず、とりあえず居間にあがってもらいコーヒーをいれた。姉と二人っきりになったことがほとんどないため、居心地の悪さはお互い様のようだ。雑談しないという暗黙の理解なのに、ついつい小話で三十分も費やしてしまう。日本人であることを痛感する。

それでね真澄さん、今日聞きたかったのはこれなんだけど。ハンドバッグから封筒。封筒のなかから古そうな写真をいちまい。私が見たことのない、昔の家族写真。姉と主人が、どうだろう、それぞれ7歳、5歳といったところか。姉はかわいらしいパステル(写真が黄ばんでただけかも知れない)のワンピースを身につけているが、おせじでも可愛いと言えない仏頂面。主人は泥だらけのポロシャツに、犯罪的とも思える丈の短い短パンと白いスニーカーの組み合わせ。ニヤニヤ笑ってる。

ほら、見てここ。俊一、背中の後ろに何か隠してるの、わかる?両手で後ろに何か隠してるのよ。あたしのジェニーちゃん人形のお洋服だったのよ。

そうだったんですか、主人も昔はいたずら好きだったんですね、と愛想笑いするしかなかった。

ごめんなさいね、こんなものを見せに来て、あなたきっと私が変だと思ってる。

いえいえ。当たり前だ。

でも、あなた子供のころの俊一のことを良く知らないって言ってたのをふと思い出してね、今日押し入れの整理してたらこれが出てきてね。忘れないうちに見せたかったのよ。

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