3.14.2010

詰まるところ願いは

昌夫は雪子に大変な片思いをしていたが、結果その恋は実ることなく、二人ははなればなれに生涯を終えた。なぜ昌夫がそこまで雪子のことが好きだったのか、なぜ、むすばれなかったとかは誰にも分かりっこない。他人の恋というのは大概理解しがたいものだし、したがって他人の恋は一般的には退屈なことだとも言えるのだ。

さておき、

昌夫は、最期の瞬間に考えたことは、もっと雪子の側にいられれば、という想いだった。

二人は再会した。雪子は再び女として生まれ変わり、春子となった。昌夫はというと、それよりは少し話はややこしいが春子が運転する自動車に搭載されたメーカーオプションのエアバッグシステムに生まれ変わった。

昌夫(とするが)は最期の願いが叶ったことは嬉しかったが、自分が春子に役立つことができる唯一のシチュエーションを考えると、複雑な気持ちだった。そして、静かに春子を見守った。

日本人の乗用車の平均保有期間は足元の景気後退により長期化してきたとはいえ、せいぜい六年半だと言われている。春子もその一人で、月日は流れてやがて買い換えの時期になった。幸いなことに、春子は一度も大きな事故にあわなかった。

車が引き取られる日、さようなら春子、と昌夫は機械の心でつぶやいたのだった。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home