12.18.2009

揺れる想いと車両

何の容疑か分からないまま、取調室に放り込まれたのだった。私の名前は川北信次郎。分かっているのはそれと、私が無実だということだけだ。

「あなたは川北信次郎、本人で間違いないですね?」

あたりまえのことをひたすら聞かれる。果たして警察の連中はこんなことが事件の解決につながると本気で思ってるのだろうか。

「これは、失敬。しかし、本人確認は大事な手続きなので協力してください。」

言うことは穏やかだが、警官の表情はけわしくなるばかり。失敬だなんてちっとも思っていない。むしろ、苛立ちがにじみ出てる。

「自宅の最寄り駅。」

はい?

「自宅から徒歩で行ける範囲で一番近い距離の・・・」

いえ、意味は分かりますが関係あるのですか?

「あなたが先ほど書いた住所が本当だったら、決して難しい質問ではありませんが?」

警官は少し得意げに片目の眉を動かす。その一瞬、僅かな笑みをみせた。なるほど。西大島でます。あんまりケチをつけず、素直に答えた方が具合が良さそうだ。しかし、私は次の問いにつまずいた。

「西大島から勤務先まで駅はいくつですか?」

即答できなかった。何駅、なんて数えた覚えはない。なんとなく、目的の神保町の2、3駅前から降りる準備をするだけだから。

「川北さん、あなたは今の通勤路を何年間つかってますか?同じ会社に10年もつとめているのではなかったのですか?」

ちょっと待ってください、西大島、住吉、菊川、森下・・・森下・・・

「浜町です」

浜町、ええ、馬喰横山、岩本町、小川町、で、神保町です。

「私は、数を聞いてます。」

急に不安になった。指を折って数えた。イチ、ニイ・・・。しかし既に勝負はあったようだ。

私自身、信じられないのだった。

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