10.22.2009

壁から滴るイニュエンド

リンリン村はある山奥に潜んでいて、地図にのっていなかったらいまにも忘れ去られるような村。自給自足なので、村人は滅多に村の外に行かない。

そんなリンリン村の南に森が広がっていて、その更に奥に小さな洞窟がある。これまた、時に忘れられそうな村人と同じで、風がふけば忘れられてしまいそうな、小さな洞窟、もはや洞穴とよぶべきか。大人一人が膝小僧を抱いて完全に入るくらい。

何故この洞窟が村人の意識に留まっているかというと、古くからの言い伝えがある。大した話ではなく、早い話はこの洞窟、「願いの洞窟」とされており、願掛けの場所だ。オリジナリティに欠けるが古くからの名前なのだから仕方ない。安産、縁結び、金運、雨乞い、交通安全、豊作、受付可。大勢じゃないにせよこれだけ用途の幅があると、託される穴の立場からするといかんせん気の毒な状況と思える。

どの家も、神棚をたてていない。
例えば、月夜のいま洞窟に入ろうとしている、あの青年。花嫁を明日むかえることになっているが、田舎には田舎なりのレールに乗っての運び。壁から滴る水滴に濡れて、無表情、ただただじっとしているだけ。悩む以前に何について悩めばいいのか教えてくださいといわんばかり、じっとしているだけ。若者だってこの洞窟を訪れる。不思議な何かを求めている、というよりは、小さな村で思い存分想いにふける、邪魔の入らない場所といえばここしかないのかも知れない。

これとは関係ないが、最近洞窟の中に赤ん坊が発見された。捨て子、なのであろうが、ついつい不思議な何かに話を結びつけようとする一部の村人が騒ぎたてているらしい。

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