7.13.2009

平手から抱擁へ

私は、ビンタを選択した。

中学生の娘が家出をし、金曜日から日曜日まで二晩も無断外泊した。どこで泊まったか、大体の見当はついている。家出のきっかけとなったのも、娘が「友達と泊まりがけで海の旅行に行きたい」とおかしなことを言い出したのだ。男もいたのだろう。どのような連中か一言説明してくれれば考えなくもないのに(例えば同級生の戸部君あたりだったら見るからに気が弱そうで安心だと思っていたかも知れない)、はなから私が反対すると読んでいたかのように言ってきた。見知らぬ男の存在を知りながらもちろん行かせるわけにはいかない。当然のことだ。誰が主催しているか分からないが、実にけしからない。親の顔がみたいというのはきっとこういうのだ。そんな訳で私は遠慮なしにガツンと言ったわけで、娘はそのまま飛び出た。結局、父親が許しようとそうしまいと、本人は行くつもりでいたに違いない。それなのに何故、どんな考えで彼女はわざわざ私になんか頼みに来たのだろうか。

日曜日の夕方、あっけらかんと玄関で「ただいま~」なんていうものだから、腹がたってこちらから出向いてそのまま平手を放ってしまった。変な表現、私は子供の家出は「初体験」だったが、人によって殴るか抱きしめるのどちらかと言うが、私はその場では迷うことなく、いや残念ながら抱きしめる気持ちは一切おきなかった。

ドミノ倒しのごとく彼女が泣き崩れ、母親が下駄箱の中で待ち構えていたとしか思えない素早さであらわれて娘をかばう。何するのよ!お父さん、何するのよ!二人の声が重なる。お母さんが良いっていうから行ってきたの!そう、あたしが河原さんのご両親と確認して、美香に行かせたのよ!妻が巧みに事後説明を織り込ませながら、私をなだめようとしている。

それでも抱きしめられない。自分がこういう状況にあるのが恥ずかしい、そして今さら説明を聞かせられても、私はとっくに醜い醜い狼男なのだ。どのみちこんなのに抱きしめられる側が、逆に困るのだろうと思った。

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