7.10.2009

とめてあげませんだったら

早朝の時間帯にかかわらず、流れゆく都営バスはもう満員になってしまっていた。特に混雑していた一つのバス内。吊革につかまる乗客は、先の停留所で待つ人を見かけるたびに心の中で、既にブレーキを踏みはじめた運転手を凝視し、正気にこれ以上詰め込む気なのかと舌打ちを鳴らすのだった。2、3人がバスの前方で扉に入れないでいる。運転手はバックミラーに視線を一度も向けず、平坦なトーンで「詰めてくださーい」と、'乗れるまで動かない'という意思表示をはっきりさせる。奥へ、奥へと人の体がしまわれていく。

「とまります」

「とまります」

「とまります」

「とまります」

「とまります」

駅近辺の停留所の一つ前になると、何人か乗客が一斉にブザーを押し、バス中のすべての「とまります」マークが点灯する。どの乗客も目をつぶらない限り、とまります、という事実の表明から逃れられない。自動アナウンスの女性の声は、ブザーが一回押されようと十回押されようと同じ平坦なトーンで、つぎ、とまります、と機械的に言う。御意、とでも表現した方が、ひょっとしたらその態度を正しく表せるのかもしれない。

私は、立ち位置が前方寄りだったので、とてもじゃないが後方扉から出れそうにない。できる限り丁寧に、運転手に、前方から降りてもいいですか、と尋ねるが平たく断られる。うしろ、と。目すら合わせてくれない。いや、なかなか出れないものですから。

運転手は前を向いたまま、両腕で大きなハンドルを力いっぱい叩きつける。

とまります、じゃなくて、とめてくださいだ、と大声で宙に叫ぶ。

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