5.26.2009

すももももものうち

文明社会から隔離された小さな村。その人々は生まれてから親から学び、自ら食するための作物を育て、狩をし、家族を築いて子孫を残し、それらの繰り返しが全てと受け入れて大地に帰っていった。一年の流れは季節に教えてもらい、一月の生活は月に従い、一日の行動は太陽と共にした。

とある夏季のこと。ひどい干ばつで、まずは作物が全滅した。村人は十分の食べ物を確保できず、狩と採集に力を入れた。ところが、干ばつが悪化していくと川や湖もなくなり、野生の動物や植物も次第に姿を消していった。あげくのはて、赤子や老人をはじめ村人たちも命を落としはじめたのだった。じっとしするしか、餓えに対する手の打ちようがなかった。動いた分、身体が水や食べ物を欲してしまうからだ。

「そなたを救ってやろう」

天からの声が、そう言いながら、空から雨やパンを降らせた。何ごとかと、テントの中で横たわっていた村人たちが村の広場で集合した。ところが、こんなに雨が降っているというのに誰一人表情を変えない、いや、むしろ以前より困惑してしまった様子だ。パンを拾い上げるそぶりも見せない。

「誰だかわかりませんが、なんの真似です?」

「そなたを救ってやろう」

「なにを救うのです?」

「そなたを救ってやろう」

「私たちは、いいです」

「いい、だと?」

「前にも外の世界から人が迷い込んできたことがあります。その人たちも救うとか助けるといって、水やモノを置いていきました。ただ、その見返りを提供することが私たちにはできないのです」

「私はまだ、なにも言ってないぞ」

「いや、何もないので、本当に」

「"祈り"の一つもできないというのか?」

「いや、興味があまり・・・」

「好きにしろ。お前たちの愚かさに呆れた」

とたんに雨とパンは降り止んだ。村人はしばらくその場で立ちすくみ、天の声の持ち主の気配が去るのを待った。そして、スイッチが入ったかのように残されたパンをせっせと集めて分け合った。

生き残っていた老人が、生き残った子供にこっそり言う。
これも大地の恵、ありがたくいただくべし。

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