7.01.2009

逆転するバイオリズム

その夜、史朗にとって小さな革命が起きた。

眠れない夜は誰にだってある。そういう時の選択肢は、多分、寝付くまでベッドでねばるか、起きあがって別のことをしながら睡魔を待つ、の2つから選ばなければならない。史朗はいままで、眠れない夜は必ず寝返りうちながらねばる性の男だった。ただ、今夜ばかりはいつもと違った。むし暑くて、外は騒がしくて、おまけに晩御飯を食べすぎて胃の調子がおかしくなっていた。もとより糸屑のような眠気だというのに、それを世の中が一斉にコテンパンに総攻撃するかのようだった。史朗はとうとう諦めて、ベッドから起き上がることにした。

居間のあかりをつけずに、座椅子に腰をかけてテレビをつけた。テンションの低いバラエティー番組がうつる。気がつけば、史朗は深夜テレビというものを一度も見たことがなかった。いつも普通の時間帯でみる女優や芸人、顔ぶれは同じなのに明らかに深夜帯になると誰もが別人だ。手抜きなのか、時間の流れが極端に遅く感じる。ゆらゆら、ゆらら。まさかこんな時間で生放送をしているわけがないのに、テレビの向こうの人たちはまるで史朗の事情をテレビをつける前から悟っていたかのように。頭がぼぉっとしてきた。

「とっとと寝やがれ、バカヤロー」

はっと我にかえると、画面には良くみるタレントがアップで、完全なるカメラ目線で画面の中から話しかけてくる。気のせいかと、しかしかなり驚いた。何かの悪のり企画だろう。

「お前だよ、お前」

しばらくヤジがつづく。五分、それが十分、やがてとっくに番組が終わってるはずなのに四十分も。一切史朗の名前どころか固有名詞をくちにしないので、終始史朗はキツネにつままれたように画面に食いつくしかなかった。

翌朝目が覚めると、史朗はベッドに戻っていた。となりの居間では、なに食わぬ表情でテレビが深く眠るように静まりかえっていた。

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