5.31.2009

ツチノコを求めて

都内の大きなホテルの最上階のバー。店内の照明は落とされ、窓の外の夜景がひきだつ。品のあるピアノジャズが流れていて、その静かな重力にひかれて来たかのような、上品なお客が多数、それぞれひっそりとその一時を楽しんでいる。バーのマスターは今日もカウンターの裏で背筋をピンと伸ばして背景に溶け込み、ストイックに仕事をこなしている。限りなくイメージに近い風景に、それにふさわしいお客、マスターからしてみればこれ以上の至福のときはない。何一つ、今夜は「直す」必要がないのだ。

勿論、毎日毎日こう上手くいくわけではない。大きなホテルなので、実際迷い込んでくる客のプロファイルは実に多種だ。好奇心と居酒屋帰りの勢いで立ち寄る中年サラリーマン。背伸びするキャバクラ嬢。マスターはこの層に対してもソツなくサービスをする。どのみち長居はしないのだ。東京観光の老夫婦、チンピラのお兄さん、会社の飲み会から抜け出してきた少数の新社会人、ホテルの外を冒険したがらない外人宿泊客、みんなこのバーの「本当」の客ではない。ストイックにこなし、早く退散していただくように努める。

それだけのことだ。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home