5.18.2009

内戦の季節の風がふく

閉店間際の夕暮れ。一人しかいないペットショップの店員が展示されていた子犬や子猫をバックヤードに戻し終えようとしたころ、小さな女の子を連れた3人家族が入ってきた。父親と思える男が、ガラガラの店内を見て、まだやってますか、と大きな声でいう。店員の頭だけがバックヤードからひょこっと出て、ちょっと片付け中ですが、終わりまでごゆっくりどうぞと言う。この一組の客だけのために動物たちをみんな展示しなおす気にはなれないようだ。

沢山の生き物をあつかうペットショップというのは、客入りがそこそこ良いが、実際買い上げる人の数が少ないというのがお約束だ。訪れる人からしてみれば、手軽な動物園としての役割も担っている。まあ、来る人来る人が皆、子犬や子猫を衝動買いされても、商売とはいえ困ったことであろうが。

家族は子犬目当てのようだ、しかも結構真剣のよう。母親がいう、ワンちゃん今日はもうあまりいないのね、みゆきちゃんまた来週にしない?みゆきちゃんは、いやだ今日が誕生日なんだから、と頑なに譲らない。子犬が一匹だけ、まだ展示されている。生後8ヵ月の黒いボストンテリア、オス。歳のせいか、今一つ活気を感じられない。今はスヤスヤ寝ている。

みゆき、この黒い子がいい。

他のは見なくていいの?

だってかわいいもの。

ボストンテリアはかごの前の騒ぎを察し、つまらなそうに目を半分開いてまた閉じる。

大人というのは慎重でちゃっかりした生き物だ。こればかりは知恵がそうさせるので仕方がないことだ。売れ残りを買うことはもってのほか、何かと比較できないまま、吟味せずに買うことは後悔を招く。両親はともに泣き叫ぶみゆきちゃんを説得し、また来ます、と言い残して店を去った。おそらく、一度恥をかいたこの店に戻ってくることはないだろう。

夜がふけて、静まり返ったバックヤードで黒いボストンテリアが深くため息をつく。となりのアメリカンショートヘアに、ああはなりたかないよ、と愚痴をこぼしてみる。

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