3.25.2009

昔の恋文を読み返し

火事の翌朝は良く晴れていた。木ノ下氏は早朝一人で全焼した我が家の残骸を確認しにきた。母と妻と娘は宿泊したホテルの部屋でまだ寝ている。何もなかったかのよう、皆嘘のように穏やかな寝顔だった。寝床についたのは午前の4時過ぎだったので、無理もない。

改めて青い空のしたで静まった現場を見渡すと、不本意にも清々しく思える自分がそこにいた。昔からある密集した住宅街の中心に、ポッカリ空いた黒い正方形。敷地の左右後ろを囲む、近所の家の外壁に初めて日が照らされていたのが気持ちよく思えたのだった。

警察にも消防士にも、現場調査が終わるまで踏み入れないよう、注意されていた。あまりにも見事な全焼なのに、隣に火が移らなかったのが、もしや故意の放火事件かも知れないと睨んでいた。木ノ下は一度、誰も周りにいないことを確認し、黄色いテープをまたいだ。どうしてもいち早く探したい物があった。

人は誰もが、何かを愛し、何かを憎み、何かを失ったことがあるという。

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