7.25.2008

舐めるように

地下鉄の車両はいつの間にか混んでいた。私はたまたまその日は、沿線の終点から終点に乗ることでこの都会を横断していた。今頃、都心部であろうと想像した。つり革を人差し指と中指で引っ掻けて、真っ暗な窓とにらめっこをしていた。

弱冷房車に乗ってしまったようで、にじみ出る汗でワイシャツが肌にべたつく。強烈な汗の匂いがする。体臭でもなく、口臭でもなく、紛れもなく汗、汗、汗。

私の隣に女性が立つ。正確にいうと、彼女がどこかから左腕を伸ばして、私の隣のつり革をつかんだ。一目見てとても美しい腕だと分かる。指先の爪はちょうどいい長さで形も綺麗に整えてある。指は長め。サラサラ白い肌。上品なゴールドの時計。ノースリーブ。他に説明のしようがない、触ったら気持ちいいに違いない二の腕。

体制的に、これ以上は頭を回すことが出来ず、あと少しというところで彼女の顔を拝むことが出来なかった。私の顔から十数センチの近距離に、魅惑の手。軽く、ほんの少量の香水が手首にかかっているようで、数々の人の汗の匂いをやさしくすり抜け、その香りは私の神経を刺激する。

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