2.07.2008

田辺よイチゴの方が良い

田辺は自分の前世を知っていた。14世紀のフランス画家の生まれ変わりなのだ。その画家の名はバプティステ・サンフランボワーズグジュグジュで、その時代でかなりの力を持つパトロンの下で絵を描いていたそうだ。15歳という若年で才能が見込まれ、亡くなった67歳まで幸せに暮らしたのだった。と、言うのがとある夜、とある街角の占い師が田辺に言い渡した結果だった。数年前の出来事だが、田辺はその夜のことをよく覚えている。

田辺自身、特段優れた絵心はないと自分で判断している。強いていうならば、子供のころぬりえに凝った時期が少しあったくらいだ。文字がきれい、と会社の人に褒められることが稀にある。自分が15歳のころは画家どころか、エロ本とゲームに明け暮れるごくごく平凡な少年だったのだ。なので、たとえ占い師の言うとおりだったとしても、とてもじゃないがサンフランボワーズグジュグジュが人生を影響しているとは思えないのだった。

ただそうとは言いつつも、いったいどんな理由で14世紀のフランス画家が21世紀の日本のサラリーマンに生まれ変わるのか、そんな疑問が田辺の頭の隅っこでいつもあった。人が本当に生まれ変わるのであれば、それなりの理屈があって次世が決まるのではないかと考えてしまうのだった。田辺は図書館でルネサンス時代の画家についての本も全て読み荒らした。サンフランボワーズグジュグジュについて得られる情報はほとんどなかった。糖尿持ちであったことと、現在彼の作品はアートマーケットでもブラックマーケットでも出回っていないこと。そもそも、あまり有名でなかったこと。田辺も占い師に教えてもらえなかったら知らなかったのだから仕方がない。

そんなことを考えながらチョコバナナクレープをむさぼり食う田辺であった。

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