1.12.2008

素朴なおまじない

街のちいさな小料理屋での光景。四人用の座敷。テーブル上は、突然中断された飲み会の料理がそのまま放置されている。ほとんど口のついてない生ビールがある。ジョッキの底から、一本の細い泡の柱がたつ。冷奴、漬物、途中までつつかれた焼き魚の残骸。きっと、気を許し会った者同士の会だったに違いない。

そのほんの30分前、そこに座っていた一人の男の携帯電話が鳴った。高校生の娘が母親とケンカをして家出したのだとか。男たちは数年ぶりの新年会の最中だった。

バカタレが。

ジロちゃん、とりあえず探しにいってやりなよ、新年会はまたいつでも出来るんだしな。娘の家出なんて、こんな時期は今しかないんだから。

そうそう、お開きお開き。

他の男たちも快くジロを送り出した。

彼らが勘定を済ませて店をでてから大分時間が経っているのに、店の主人も奥さんもそのテーブルを片付けようとしない。午後八時半。こんな時間帯でも今夜は他に客がくる気配もないので、焦って片付ける必要がないといえばそのとおりだ。ただ、主人が心のどこかで、男たちが何年後か再びこの店で新年会をひらくことを願っていることを、なんとなくその笑み語ってるような気がしてしかたがない。

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