1.21.2008

幸福の黄色い線

目の不自由な人のための黄色い線。路上の少年は下を向いて、その線をたどって歩いていた。その黄色い線は、駅の出口から始まっていて、終わりが見えないほど長く続く線だった。少年は歩道を歩き、交差点を渡り、道を幾度曲がりやがて駅からすっかり離れた住宅街にたどり着いた。そして、黄色い線の終点に何があったかというと、何のへんてつもない一軒の家だった。

少年はインターホンを鳴らした。返事がかえってこない。しばらくすると、玄関のドアが開く。出てきたのは、若い女性だった。水色のブラウスとベージュのスカートを身に付けていた。とても美しく、ものやさしく優しい空気が漂うようだった。

この線をたどってきたのね。中へいらっしゃい。少年は言われるとおりにした。家のなかも、何も変わった様子はない。和室の居間に案内された。飲み物、持ってくるわね。お茶にしようかしら、それともオレンジジュース?カルピスもたしかあったわ。お父さんが昨日、買ってきたの。

少年はカルピスをもらった。

お姉さん、目が見えないの?

女性は笑った。そういう訳じゃないのよ。あたしはあなたと同じように、目も見えるし、音も聞こえる。見ての通り自分の脚で歩けるし。坊やは、黄色い線がなんでこのお家につながってるか知りたいんでしょう?

少年はうなずいた。

確かに、あの黄色い線はお父さんがあたしのために作ったものよ。なんて説明してあげればいいのかしら。あの線がないと、あたしは帰り道を良く忘れてしまうの。だから、お父さんはあたしが下を向いて線をたどってあるけば家にたどり着けるように、あの線を作ったのよ。

少年は、再びうなずいた。

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