1.11.2008

心ここにあらず

朝寝坊だ。

急げば間に合ってしまう。中途半端で最もタチの悪い寝坊の仕方をしてしまった。栗原は短くため息をつき、覚悟を決めて布団を出る。冷たい水で顔をバシャバシャ洗い、冬の空気で乾燥しきった、硬いタオルでふく。次は歯をガシガシ磨き、鼻かんだティッシュをくずかごがあろう方角に投げる。見事に的をはずし、グシャグシャになったティッシュは無惨に床へ。

自宅を出て百メートルも歩いていないうち、多分、寝室の豆電球をつけっぱなしにしてきた不安におそわれる。しばらく、歩道をパックマンのように右往左往する。あきらめてまっすぐ駅に向かうことにする。歩きながら、ポケットの中に財布、カギ、定期券があることを手で確認する。

電車にはギリギリ間に合う。車両に飛び込んだタイミングと合わせるようにドアが閉じる。ドアが完全に閉じるまでのほんの僅かの一瞬、走馬灯のように他の忘れ物たちが頭をよぎる。水道代の振込用紙、ネクタイ、同僚に貸す約束をしていたビデオ、時計。挙げ句の果てに背広にクリーニング屋のタグをつけたまま到着してしまっている。一旦、席に着く。作業をはじめようとするが、左手で何か、かたく握りしめていることに気づく。

グシャグシャに潰れたアンパンを崩してほおばる。
とてもおいしい。

コメント0archive

Post a Comment

<< Home