11.21.2007

盗人のあれこれ

増渕という名の男はプロの盗人だ。

そもそも盗人にプロやアマチュアという分類はないといえばないが、増渕は人のものを盗むことだけによって生計を立てている。仕事やアルバイトは一切していない。従って、その時点でプロの盗人といえるのだ。あと加えるとするならば、増渕は盗むことにまつわる良し悪しにつき悩むことは時々あるが、とりわけ辞めるきっかけがない。その一方で、成功し続けるプレッシャーの渦中、日々ひたすら技を極めざるを得ない状態なのだ。つまり、「盗人」を、たとえば、「コロッケ屋」、に言葉をすりかえる事ができたとすれば、これ以上輝かしい「プロ」はないといえるだろう。

今日は天気がとても良い。雲ひとつない、青い空。
増渕もとても気分が良い。

さっそく、今まで目をつけていた高級マンションの下見に出かける。オートロックが設置されているが、階段のガードが甘い構造なのだ。タイミングよく、とある独身サラリーマンが出かけて行くのを確認できた。いつも高そうなものばかり身につけているので、期待ができそうだ。増渕は階段をふさぐドアを楽々とよじのぼり、3階にあるそのサラリーマンのマンションにたどり着いた。ロックも、難なくこじ開けることができた。

高級時計、だらしなく台所のテーブルに出しっぱなしの通帳、ステレオコンポ。増渕は品々を冷静に見定め、持てる物・持てない物別にすばやく判断を下した。

そして、今日は気分が良いので玄関周りを簡単にクイックルワイパーしてその場を去っていったのだった。

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