10.24.2007

アリがとう

2、3人の幼稚園児が園庭で集まっている。
早い話、アリの巣をいじっている。
そのうち一人の幼稚園児が言う。

「やめようよ、かわいそうだから」

他の幼児はシブシブその一声に従い、解散する。声を上げた幼児だけ残り、ちょっと罪悪感あり気にアリの巣の残骸をながめている。一匹のアリがひょこっと巣から出てくる。小さなフロシキを背負っている。

「助けて下さってありがとうございます。あなたが巣荒らしを止めてくれたおかげで、私は生き埋めにならずにいられました。あなたは私の命の恩人なので、私はこれからあなたの手下になります。一生ついていきますので、よろしくお願いします。」

「でも、アリの巣を壊しちゃだめ、って教えてくれたのはボクのパパだよ。手下ってよくわからないから、パパに言ってよ。」

幼稚園児はアリを肩に乗せて家に帰った。パパが夕方に帰宅すると、アリをパパに言った。

「あなたがこの子にアリの巣を壊してはいけないと教えてくれたおかげで、かくしかじか、なので私はあなたの手下になります。よろしくお願いします。」

「アリさんを手下にもってもなぁ・・・困ったもんだ。俺だって、アリの巣を壊してはいけないことを他の人から教わったんだ。とっくに亡くなったバアさんだがね。」

命を救ってもらいながら、すぐさまあの世に行くわけにもいかないので、アリは仕方が無く残りの人生を過ごすことにした。一生懸命働き、女王アリにも褒められるようなアリになった。数ヵ月後、ようやく息を引き取った。さて、恩返しだ、と思いきやあの世の門番に止められた。

「アリを入れるわけにはいかねぇな。ここは残念ながら人間の魂のところだ。悪いことは言わねぇ、よそに行きな。」

「でも、かくかくしかじか。」

「そうかぁ、そりゃあ立派なもんだ。でもなぁ、困ったもんだ。なにしろお前はアリの魂には変わりないからなぁ・・・。そうだ、人間の神様は何もやってくれなさそうだが、虫の神様だったらなんとかしてくれるかもしれない。紹介状を書いてやるから、そこに行くが良い。」

アリは門番の紹介状を手に、虫の神様に会いに行った。

「かくかくしかじか。」

「お前は実に立派なアリだ。でも、死んだ人間でも生きた人間でもお前が手下になったところで、お互い何もならんだろう。でも、その心構えは評価すべく、お前には褒美をやることにしよう。これからお前に命を十個やろう。十匹のアリとして生まれ変わるがよい。」

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