9.15.2007

好きで嫌いで

円次郎と角ノ助、二人はそれは仲の悪い双子の兄弟だった。かけっこにしても、お絵かきにしても、何にでも殴り合いの喧嘩に発展するのだった。健康的な競争心だったらまだしも、何を始めても五分足らずで血が流れるものだから、両親は困り果てていた。そこで、父親は家族で海水浴に行くことを思いついたのだった。海水浴だったら、二人ともおとなしく、波で遊ぶほか何も無いだろうと考えたのだった。

パラソルを設置すると、まず行動したのが円次郎だった。波には見向きもせず、砂の山を作り始めたのだった。角ノ助も負けまいと、円次郎の近くでせっせと作業を開始した。父親と母親は目を合わせた。また、はじまった。

「おい角ノ助、真似するなよ」

「円次郎こそ、真似するなよ」

そう怒鳴り合いながら、二人の側にはやがて、それぞれ、大きな砂山と、その砂山を作るために掘った大きな「穴」ができた。山は互角の大きさだった。円次郎が再び先手を切った。角ノ助は自ら掘った穴の中で掘り続け、自分の山の方に砂を放り投げていた。円次郎は角ノ助の穴に飛び込み、角ノ助と肩を並べて砂を堀りはじめ、しかし掘った砂は自分の山の方角へ投げた。角ノ助の山が大きくなるのを遅らせる手段であった。ところが、角ノ助は気にしていないようだった。母親は珍しく二人が喧嘩をせずに同じことをしていることに驚いたが、原因はすぐ分かった。角ノ助は「山作り」で競っているのではなく、「穴掘り」で競っていたのだった。

母親はこっそり父親にそれを明かした。

あなた、どうする。

ほうっておいて、どうなるか見てみようか。

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